絵に描いたような理想のライフスタイルを送りながらも、内側に狂気を孕んだ「完璧な夫婦」の崩壊を、冷徹かつ痛烈なユーモアで描き出した一作です。1989年の名作『ローズ家の戦争』を現代に蘇らせた本作は、数々のブラックコメディを手掛けてきたジェイ・ローチ監督と、映画『哀れなるものたち』で人間の奇妙な心理を抉り出したトニー・マクナマラの脚本という、最狂の布陣によって誕生しました。主演を務めるのは、オスカー俳優のオリヴィア・コールマンと、変幻自在の名優ベネディクト・カンバーバッチ。演技派二人が見せる、エゴと執着が剥き出しになった夫婦の泥沼のキャットファイトは、観客に息をもつかせぬ緊張感と、引きつった笑いを提供します。さらにアンディ・サムバーグやケイト・マッキノンといった実力派コメディアンが脇を固め、洗練されたビジュアルと辛辣なセリフの応酬によって、現代社会における夫婦の「格差」と「歪んだ競争心」を浮き彫りにしています。
物語の主人公は、建築家としてのキャリアを積む夫のテオと、料理家として頭角を現していく妻のアイヴィです。二人は双子の子供たちにも恵まれ、誰もが羨む順風満帆な結婚生活を送っているように見えました。しかし、テオが手掛けた大型プロジェクトが文字通り崩壊し、彼が職場を解雇されたことで、完璧だった家庭のバランスが崩れ始めます。専業主夫となったテオが子供たちに異常なまでの厳格さを求め始める一方で、アイヴィは自身のレストランビジネスを拡大させ、経済的な主導権を握るようになります。これまで隠されていたお互いへの嫉妬、不満、そして凄まじい競争心が表面化し、二人の関係は「家庭内戦争」へと発展していくのです。
お互いへの嫌がらせは次第にエスカレートし、アイヴィが資金を出してテオが設計した念願の「理想の豪邸」の所有権を巡り、離婚調停は泥沼化します。お互いを社会的に、そして肉体的に破滅させようとする戦いは、ついに狂気の領域へと達します。テオはアイヴィのアレルギーを悪化させるデザートを執拗に勧め、彼女の命を人質にして離婚同意書にサインを迫り、憤慨したアイヴィは本物の銃を持ち出してテオを追い回します。豪邸の中で繰り広げられる激しい死闘の最中、アイヴィが大切にしていたジュリア・チャイルドゆかりの高級オーブンが破壊され、室内にプロパンガスが充満していることに二人は気づきません。
傷だらけになりながら、互いを殺さんばかりに殴り合い、罵り合った果てに、二人はベッドに倒れ込みます。あまりにも激しくぶつかり合った結果、逆説的にお互いへの執着と、まだ消え去っていなかった歪んだ愛を再確認した二人は、ついに和解し、抱き合ってキスを交わします。テオは新しい関係の始まりを祝うため、自宅のスマートホームシステムに「僕たちの思い出の曲を流して、暖炉に火をつけてくれ」と指示を出します。その瞬間、充満していたガスに引火し、画面は暗転する間もなく真っ白な閃光に包まれます。破滅の火種を自ら撒いたことに気づかぬまま、愛と憎しみの果てに寄り添った夫婦は、一瞬にして爆死するという衝撃的な結末で幕を閉じます。
| 原題 | The Roses |
| 製作年度 | 2025年 |
| 製作国・地域 | イギリス, アメリカ |
| 公開日 | 2025年10月24日 |
| 上映時間 | 105分 |
| 監督 | ジェイ・ローチ |
| 脚本 | トニー・マクナマラ |
| 出演者 | オリヴィア・コールマン, ベネディクト・カンバーバッチ, アンディ・サムバーグ, ケイト・マッキノン, アリソン・ジャネイ, スニータ・マニ, ゾーイ・チャオ, アキー・コタベ |
